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ドーパミンと線条体

ーー『脳が「生きがい」を感じるとき』グレゴリーバーンズより引用ーー

まずドーパミンについて説明しよう。ドーパミンは喜びをもたらす脳の化学物質とみなされてきたが、最近になってそれ以上の働きをしていることが明らかになった。ドーパミンは単純な構造の分子で、ニューロンの小さな集まりの中で合成される。ドーパミンを作る細胞の数はおよそ三万から四万で、脳のニューロン全体の百万分の一よりも少ない。しかしドーパミンがなければ、あなたが報酬として感じていることは何も感じられなくなる。

ドーパミン・ニューロンの集まりは脳内の二カ所で見つかっている。そのひとつは下垂体の上に集まっている。下垂体は脳の下部からぶら下がる小さなイチジクの形をした部位で、甲状腺や副腎などさまざまな内分泌腺を刺激するホルモンや、排卵を調整するホルモンを分泌している。
報酬と関連のあるドーパミン・ニューロンのもうひとつの集まりは脳幹の中にある。脳幹とは脳から脊髄に移行するゾーンにあたる長さ10cmほどの神経組織で、とても狭い場所だが、非常に多くの情報が流れている。脳幹の中には特殊な働きをするニューロンの小さな集まりがいくつもあり、ドーパミンを作る細胞もそうした集まりのひとつだ。

しかしドーパミンのような神経伝達物質は、行き先がなければなにもしない。神経伝達物質とそれが働きかける受容体は、鍵と錠のように特別な関係にある。そして脳の中でドーパミン受容体が集中している場所が「線条体」だ。親指と人差し指でUを作って逆さにしたものが線条体のだいたいの形と大きさで、それが頭骨のほぼ中央でふたつひと組となって脳幹にまたがっている。

線条体は脳の中でターミナル駅の働きをしている。つまり脳全体から送られてくる神経の情報という列車を受け入れているのだが、一時にそのすべてを調整できるわけではない。情報の大半はさまざまな機能をもつ前頭葉から送られてくる。前頭葉は、行動を起こす上で脳のほかのどこよりも必要とされる部位である。その行動には、からだの動きから目の動き、話すこと、読むこと、そして思考に至るまで、手短かにいえば、あなたが実際にしていることすべてと、心に思い描ける行動のすべてが含まれる。このありとあらゆる情報が線条体という一点に集まってくるので、本物のターミナル駅のように、どの瞬間をとっても実際にそこを通過できるのは2、3の行動に限られる。そして何が通り抜るかはドーパミンと大きく関わっている。

ドーパミンは線条体を通過しようとするものを、一瞬、安定させ、言うなれば、どの列車が通過するかを決めているのだ。つまり、ドーパミンは、皮質の中でざわめきながら待機している数百もの選択肢からなんらかの活動を選び出し、それにあなたの運動システムを関わらせているといえる。

その何かをしようとするまでの過程を表現するもうひとつの言葉がある。それが「動機(モチベーション)」だ。あなたはある動機を得ると、一連の動きを決める。一方、何かをするときには、それをやり遂げたいという動機が生まれる。つまり動機と行為は、ひとつの過程を別々の切り口から見たものなのだ。ドーパミンはその過程をスタートさせる触媒として働いている。線条体の中に勢い良く流れ込んで来て、ある行動の列車を特定の線路の上に送り出しているのだ。

線条体では、あなたと外界のできごとの相互作用が起きている。線条体を流れる情報は多く、この相互作用は非常に密度の濃いものとなっている。だからこそ線条体は人が生き生きと暮らしていくためにとても重要なのだ。たとえば、あなたがとても慣れている行動をするときには新しい要素や予想外の何かに出会う可能性はほとんどなく、ドーパミンの量も満足度もおそらく低い。
しかし、これまでしたことのない行動をするとき、あなたは未知の領域に入り、線条体には新しい情報が流れ込み、ドーパミンがどんどん分泌され、あなたはその情報に応じて動くように仕向けられる。新しい情報に反応してドーパミンが出させることが、強烈な満足感の核心であり、それが動機のシステムをスタートさせる。しかし新しい出来事は、ドーパミンを分泌させて気分を高揚させるだけでなく、脳を実際に変化させている。

情報の断片は、脳に入ってきて記憶の箱に収まるだけでなく、脳を分子レベルで変化させているのだ。思えばとても不思議である。紙の上のインクやテレビから出てくる光子のように抽象的なものが、なぜあなたの脳のニューロンの間でタンパク質を移動させたりできるのだろう。あなたの脳は、情報をニューロンの発火という具体的な形に変え、頭の中のほかの情報のかけらと融合させる。そしてDNAレベルでは、ドーパミンやほかの神経伝達物質が新たなタンパク質の合成を引き起こす。

本の中では”これまでしたことのない行動をするとき、あなたは未知の領域に入り、線条体には新しい情報が流れ込み、ドーパミンがどんどん分泌され、あなたはその情報に応じて動くように仕向けられる。”と書かれている。
結局のところ、私がなにか新しいことをしたがるのは、ドーパミンをガンガン出させて満足感を得たいという、そういう本能的な欲求から来ているのかな?なんて思う。そして一度その味を覚えてしまうと、ちょっと中毒っぽくもあるけれど、もっともっと!という感覚が増えてきて、それこそが人生の質を高める全てだという風に考えていくのかなあとも思った。でも、新しいことを積極的に求める人と、そうでもない人との違いはどこにあるのだろう?今までの経験上それが快感として認識されてない人は、つまり、ドーパミンをガンガン排出させて精神的高揚感や満足感を得たことがあまりない人にとっては、それがどれほど重要かということがわからない、ということなのだろうか。

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満足感とは?

ーー『脳が「生きがい」を感じるとき』グレゴリーバーンズより引用ーー

プロローグ

脳の深いところには、行動と報酬を結びつける構造がある。私は十年にわたって研究した結果、おそらく満足感の鍵となっている部位がチャレンジと新しい体験によって成長することを知った。新しいことへの挑戦や初めてのことは、避けて通りたいもののように思われがちだが、じつはそれらこそが満足感をもたらす要因となっているのだ。その証拠は満足感ともっとも関わりの深い場所、つまり脳に見つけられる。

まずはじめに、深い満足感は容易に得られるものではないことを認めなければならない。それはただチャンネルを選ぶだけで観られるテレビを1時間ほど観たあとと、しっかりエクササイズをして過ごしたあとの気分を比べてみればすぐにわかる。・・・

ここから第二の仮説が引きだされる。それは、満足感の本質は脳の中にあるというものだ。脳のどこからそのような感覚が生まれるのかがわかれば、もっと容易に満足感を得られることができるだろうし、その知識は満ち足りた人生を送る方法を指し示してくれるだろう。脳が満足感をつかさどっているというこの考え方をだれもが受け入れるとは思わないが、なんらかの挑戦を成功させたあとにわきあがってくる満ち足りた感じは、喜びや悲しみや怒りと同じく確かに存在するものだ。

けれども、満足感というものは、他の感覚と違ってたまたま感じるものではない。それは、自分自身で創り出さなければならないものであり、そこには動機が必要となってくる。

動機についてわかっていることの大半は神経伝達物質のドーパミンと関わっている。1990年代半ばまで、科学者の多くはドーパミンを脳内の快楽物質と見なしていた。確かにドーパミンは食べ物やセックスや薬物といった快楽に反応して分泌されるが、一方、騒音や電気ショックなど不快なものへの反応としても分泌される。実際、ドーパミンはこれらの刺激に先んじて分泌され、快楽物質というよりはむしろ予感物質として働いている。

ドーパミンの昨日についてもっとも手短に説明すれば、それはあなたの運動システムーーー肉体ーーーになんらかの行動をさせている、といえる。この見方が正しいとすれば、そもそも強い満足に伴って体中が熱くなるような感覚はドーパミンによるものとされているのだから、そのような満足感は目標を達成したときよりも、その目標に向かってせっせとドーパミンを出しているときのほうが多く感じられるはずだ。

ではどうすれば脳の中に流れるドーパミンの量を増やせるのだろう。その鍵は「新しさ」にある。脳の活動を画像化する実験が数多く行われ、ドーパミンを分泌させるには新しい体験がとても有効だということがわかった。なぜなら新しい体験は新しい行動を促すからだ。初めて鑑賞する絵画でも、新しい言葉を覚えることでも、楽しいこと、楽しくないこと、なんでもよいのだが、重要なのはそこに驚きがあるということだ。脳は、驚きによって刺激される。それはわたしたちが予想できない世界に生きているからで、好むと好まざるとにかかわらず、私たちはあるがままの世界を受け入れる脳を与えられている。あなたがいつも新しい体験を好むわけではないとしても、あなたの脳はそれを好む。脳はそれ自身の心をもっていると言ってもいい。

この「新しさの原則」は、脳幹の一番上にあるひとかたまりのニューロンの働きから推定したことだ。この原則が意味するところを考えれば考えるほど、それが私たちの生活をより豊かにするように思えて興味がそそられる。だがこの原則は実験室で真偽が確かめられる類いのものではない。

結局人生の舞台の広さを決めているのはあなたの行動である。あなたは何を、何故求めているのだろう。それを理解するには、脳と行動のつながりについて知っておいたほうがいい。あなたの真の欲求、すなわち脳の新しさへの欲求を理解すれば、あなたは人生が想像以上に不思議で驚きに満ちたものだと知るだろう。

ん〜脳から見た満足感の定義。フロイトによる「苦痛を避けて快楽を得る」という快楽原理からではなく、「新しいものを好む」というのはとても面白いと思った。この本ではそれらを著者本人がランニングハイになろうとしたり、SMクラブに行ったり!したりしながら検証していくとても面白い本だ。

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