幸福への近道

ーーーー『感情』ディラン・エヴァンズより引用ーーーー

第3章 幸福への近道

幸福感(happiness)は喜び(joy)と同じではないが、両者は密接に結びついている。喜びは基本情動の一つであり、他の基本情動と同様にその一回の発現はほんの数秒しか持続せず、一分を超えるようなことはきわめて稀である。それに対して幸福感は気分の一種であり、気分は情動よりは長く、通常は数分から数時間持続する。気分は私たちの情動的な刺激に対する感受性を引き上げたり引き下げたりする(意識の中心を占めることのない)背景的な状態である。
例えば、私たちは幸福な気分にあるときは、良い知らせに、より愉快に反応しやすくなるのに対して、悲しい気分状態のときには、同じ知らせに対してそう強くは反応しない。不安な気分状態にあるときには、容易に怯えがちであるし、いらだった気分状態にあるときには、すぐに怒りやすくなるものである。

心理学者が生活に対する全般的な充足感について研究するとき、そこでは、あくまでも幸福感を対象にしているのであり、喜びを問題にしているわけではない。「世界幸福感データベース」をくまなく探すと浮かび上がってくるのは、物質的な富が、幸福になるための良い方法ではないということである。
満足感はお金では買えないという古くからの決まり文句が、まさに科学的な研究によって裏打ちされているようなのである。しかしながら、多くの人が今日、物質的富裕を手にすることが、あらゆる問題を解決することの鍵となるという幻想にしがみついている。だからこそ、宝くじで一攫千金の夢を見ることがこれほどまでにまかり通っているのである。

そうした夢は、もし私たちが、本当に宝くじに当たって莫大なお金を手にした人についての研究を知っていれば、これほどまでに一般的になることはないのかも知れない。それらの研究は、宝くじに当たった人のほとんどが、そうなることで素晴らしく幸福にいなったわけではないことを暴き出している。

もし物質的な富や突然の幸運が幸福感をもたらさないとするなら、幸福感をもたらすものは何ということになるのだろうか。「世界幸福感データベース」によれば、私たちをもっとも幸福にしてくれそうなものは、私たちがずっと知っていたものである。すなわち、健康を享受し、仲の良い友を持ち、そしてとりわけよい家族関係に恵まれることである。またしても、昔から言われている月並みなことがきわめて正しいということになる。

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